日本学術会議新規会員の任命拒否問題に関する声明

2020年10月23日

 比較文明学会理事会は、今般の菅総理による日本学術会議推薦会員の任命拒否について、学術活動に携わる団体として看過できない事態と考え、日本学術会議が10月3日に公表した「第25期新規会員任命に関する要望書」を支持し、任命拒否の明確な理由の開示を求めると共に、知の専門家集団の判断の尊重を改めて強く求めます。
 また、比較文明学の立場から、本学会は知の自由、独立、そして言論・思想の自由と独立が、国家社会の発展に不可欠であること、そのために為政者側の謙虚な姿勢こそ重要であると提言します。
                         比較文明学会理事会

提   言

 喫緊の対応が求められる新型コロナ関連の問題はもとより、社会格差拡大、少子高齢化、環境問題等々、中長期的にみても深刻な問題を抱える日本社会に今求められていることは、専門知識の尊重ではないか。その上で、これらの問題解決には、政治のリーダーシップ、行政の実行力、そして、学界の知見の総合化、これらの三領域が一丸となることが不可欠である。しかし、今回の政府(菅総理)の日本学術会議への対応には、以下のような問題が認められる。この点を踏まえ、比較文明学的見地から簡潔な提言を行う。
 今回の日本学術会議会員承認の一部拒否という政府の決定は、学問の領域に止まらず思想・言論の自由への統制に連なり、日本社会の国力衰退に繋がりこそすれ、決してその強化には結びつかないと危惧する。
特に政権側の、一部推薦委員の任命拒否理由の開示という、極めて基本的で容易な説明さえ行わないという姿勢には、政権側の奢りがある。つまり、政権担当者としての「まごころ」が欠けている。それ故に、憶測が飛び交い、一層の相互不信が生まれている。その結果として、この問題の複雑化、多方面への波及という負のスパイラルに陥り、対立の深刻化という事態を招きかねない状況となっている。
 そこで、日本文明の開闢期に、為政者の心得を説き、和(やわらぎ)の心を国民統合の基礎にすえた聖徳太子の「憲法(いつくしきのり)十七条」の教えをもとに、今回の問題解決への提言を行う。
勿論、聖徳太子に関しては、歴史学の方面から、また昭和初期の国家的統制に用いられた経緯がある点から、疑問視する評価もある。しかし、本提言では、「憲法(いつくしきのり)」に付されて来た古訓、つまり大和言葉で解釈することで、その柵から脱し、新たに現代的な意義を開き、今回の問題解決に資することを目指す提言とする。
 先ずこの「憲法」で強調されている点は、国民(百姓:おほみたから)が心を一つにして、調和のある平和的国家を作ることにある。そのため特に強調されている視点が「君卿百寮(まへつきみ・たちつかさ・つかさ:政)、其れ民(おほみたから:国民)を治むるが本(もと)、要(かなら)ず礼(ゐやび)にあり」なのである。つまり、為政者側の謙虚で、真心のある姿勢を重視する点である。
 しかも、そうでなければ「下非斉(しもととのほらず)」とも指摘し、国家の安定は、為政者によるとの指摘である。反対に「百姓(おほみたから)礼(ゐやび)あるときは、国家(あめのした)自(おの)つからに治(おさま)る」と諭すのである。つまり権力にある側が、謙虚になることが、国民の融和を生み出し、結果的に国家社会の安定と発展に繋がる、という政治理念である。これが「憲法」の冒頭の「和」、すなわち「和(やわらぎ)」の精神である。
このように、本提言では、「憲法」の冒頭の和を(ワ)と音読みせず、(やわらぎ)と大和言葉で解釈する。その結果、第二次世界大戦中の国民統合に用いられた漢字本来の意味に近い、力による上からの統合、共生(平和)の思想とは異なる解釈が可能となる。つまり、大和言葉特有のしなやかで、かつ他者尊重型の共生、平和構築の道が見いだせるのではないか、とした上で、日本独自の政治理念の教訓に鑑みた政権運営の必要性を提言する。
 しかし、これを現実に実践することは難しい。人間には自己愛、自利心があり、自己を正当化する傾向があるからである。当然、他者にも同様にその心は備わっており、それ故に争いが生まれる。故に、互いにこの事実に気づき、相互に「和(やわらぎ)」の心で臨むことで、多くの争い、対立解決の道が開けると「憲法」は教える。そのためには、他者尊重の心を失わないことが肝要であるとする。特に、この点を権力の側に求めている点は重要である。これが「やわらぎ」の思想、憲法によって伝えられた日本的な融和統合思想であり、現今の日本社会に特に求められる思想ではないだろうか。
さらに、この「和(やわらぎ)」の思想は、先に述べた国内問題の解決に限らず、貧富の差の拡大、民族的偏見・差別・対立、宗教的社会的不寛容などで平和が脅かされている国際社会の問題解決にも寄与する、日本発の思想、行動原理となるのではないか。少なくとも過去を顧み、現状を省察する時、「憲法(いつくしきのり)十七条)」の思想から学ぶことは少なくないであろう。
 よって我々は以下のことを提言する。
(1) 自らと意見や立場を異にする者に対して、対話や意見の交換を恐れず行うこと
(2) 諍いを乗り越えるために、他者を尊重し誠実な心を失わないこと
(3) 国際社会における今後の日本の在り方を念頭に置いて官民が(世界の平和と安定に)協力すること

 以上、比較文明学的な視点から日本学術会議を巡る問題、そして更に日本社会が直面する諸問題解決、さらには、国際社会への一層の貢献のための提言とする。