比較文明学会は、1978年、山本新氏を中心に結成された「文明論研究会」を母体として、1983年に設立されました。初代会長には、現名誉会長である伊東俊太郎氏が就任し、顧問には、梅棹忠夫、江上波夫、桑原武夫の各氏を始め8名が、理事には、神川正彦、寺田和夫、堤彪、秀村欣二、吉澤五郎の各氏等、21名が名を連ねました。さまざまな学問分野の指導的地位にある方々を中心として、たくさんの方々が結集したのです。  本学会創設の根底にあったのは、環境破壊、資源の枯渇、国家や民族の対立など、深刻な問題を抱えながらグローバル化していく人類社会の未来を真剣に考え、人類がたどるべき新たな道標を作りあげなければならないという使命感でした。われわれ人類は、さまざまな価値観や生活様式を持ちながら、各地域で多様な文明を築いてきました。現代世界は、国際交通や情報通信技術の発達によって、表面的に見れば一元化されつつありますが、それゆえにこそ、いかなる文明も、自らの排他的絶対性を主張し、単一の価値や生活様式を押し付けることがあってはなりません。いまわれわれは、多様な文明のあり方を尊重し、それぞれの文明が培ってきた価値観や知恵を生かしながら、人類の歩むべき方向を考えるべき時に来ているのです。そのためには、この地球上に形成された、古今東西の多様な文明の比較研究を行うこと、その知見に基づいて人類文明の未来を構想することが大きな役割を果たすはずです。  創設以来、われわれは、比較文明学会を、次のような知的営為が行われる場であると考えてきました。  1.総合的かつ超領域的な思考と議論  文明とは、人類のあらゆる営みを包摂するものであり、文化、歴史、宗教、思想、政治、経済、社会などを問題とする人文社会科学のみならず、自然と人間の関わりを追及する自然科学の諸分野の成果を糾合して考察を進めなければなりません。ややもすれば袋小路に陥りかねない既成の諸学問(19世紀ディシプリン)の限界を超えて、人類とは何か、文明とは何かについて総合的かつ超領域的な思考と議論を行うことが必要です。  2.地球文明的視座に立った理論構築と実践  グローバル化した現代において、あらゆる文明は孤立して存在することはできません。いまわれわれには、諸文明の多様性を損なうことなく、より高い次元において新たな地球文明を作り上げることが求められています。そのためには、机上の空論ではない堅実な理論構築と、実践への取組が必要です。  3.開かれた学会  文明一般を研究し、あるいはこれまで生起した諸文明を比較し、未来の文明を構想することは、いわゆる学者・研究者のみの責務ではなく、市民すべてに課せられた課題です。比較文明学会の設立趣旨には、「現代文明のなかで苦闘するすべての人々と連帯するために、開かれた学会として運営されることが目ざされなければならない」と書かれています。この姿勢は、今も変わってはいません。  比較文明学会は、過去や現在の文明を考究するとともに、人類文明のよりよい未来を構想しようとする人々の集まりです。既成の価値観や学問にとらわれず、自由な精神をもって互いに切磋琢磨しようとする人々の集まりです。1961年にアーノルド・トインビー、アルフレッド・クローバーらによって創設された国際比較文明学会と連携をとりつつ、これからの文明のあり方について、新たな提言を積極的に行っていきたいと思います。同じ志をもつ多くの方々にご参加いただけることを願っております。 

比較文明学会会長 

保坂 俊司