比較文明学会第27回大会 報告
比較文明学会 第27回大会 報告
2009年11月28、29日の両日立教大学で開催した27回大会は、のべ150人の参加者を得た。第1日目は、染谷臣道会長の基調講演のあと、 松本亮三氏(東海大学)司会で公開シンポジウム「収奪文明から還流文明へ」を行い、パネリスト 森 孝一(同志社大学)、鬼頭 宏(上智大学)宮治美江子(東京国際大学)、北山晴一(立教大学)各氏が登壇ののち、染谷会長のコメントを皮切りに、フロアを交えてのディスカッションに移った。フロアの伊東俊太郎氏、服部英二氏からこれまでの文明の動態とのその変動要因、また「還流文明」の定義に関しての貴重な意見があり、フロアの他の参加者も交えて、活発なディスカッションが展開された。基調講演、シンポジウムを通じて、大会総テーマである「収奪文明から還流文明へ」を、文科省科学研究費への応募、獲得も視野にいれた学会の今後の研究テーマにしてゆくこと、また本学会がこのテーマの実現に向けて、学際的な研鑽を積み、その成果を社会にたゆまず発信してゆくことが確認された。
一日目夜の懇親会は都歴史建造物の指定を受けている第1学食で開催した。冒頭、比較文明学会賞(伊東賞)が、伊東俊太郎氏から受賞者金子晋右氏に授与された。その後は和やかな懇親の場となり、ことに学生会員と一般会員の親交の場を提供できた。
2日目は、従来の大会とは異なる新たな構成を試みた。午前の部は「自由論題」として発表者を公募し、5つのセッションを展開した。各セッションの発表者は3名で、主に学生会員、若手研究者ならびに社会人会員からなり、本学会の重厚な研究者層を構成する、服部英二、杉田繁治、小林道憲、北山晴一、保坂俊司各氏に座長を務めていただくと同時に、それぞれの発表に対する懇切な提言をしていただいた。「自由論題」では可能な限り多くの若手研究者に発表の場を提供し、また研究実績を内外で高く評価される研究者と研究歴の比較的浅い研究者の学究的交流を促進できたと考える。
午後の「テーマ部会」も新たな試みであった。こちらの方は発表者の公募は行わず、大会運営委員会が、大会テーマ「収奪文明から還流文明へ」を考察する際のさまざまな解釈とアプローチを各研究分野に求める形で、6つの部会を組んだ。中牧弘允、龍村あやこ、原田憲一、松本亮三、高橋誠一郎、阿部珠理各氏に座長を依頼し、各部会の発表者の人選をお任せした。結果、各セッションに統一感が生まれ、議論も輻輳し充実した部会が実現できた。
さらに、今回はスペシャルイヴェントとして、ドキュメンタリー映画『久高オデッセイ』上映と映画に関するパネルディスカッションを行った。久高島の伝統祭祀の消滅と自然と信仰の再生をテーマとする映画は、本大会テーマとも呼応し、鎌田東二氏をオーガナイザーとして、島薗進、鶴岡真弓、佐藤壮広い各氏が、インスピレーショナルな議論を行った。
意欲的に多数のセッションを開催したために、セッションによっては、参加者の少ないセッションも出たが、集約的なテーマ設定によって、全体に議論はよく収斂した。また新たな試みのため登壇をお願いした各氏が学会に入会してくださるという嬉しい副産物にも恵まれ、学会活性化の一助にはなったのではないかと総括する。
(大会実行委員長 阿部珠理)