第85回研究例会のお知らせとレジュメ

第85回研究例会のお知らせとレジュメ

「環境問題を比較文明学から考察する」を総合テーマとして、

第85回研究例会を下記のとおり行います。多くの皆様のご参加をお待ちしています。

期日:6月27日(土曜日)

時間:1時半から5時まで

会場:立教大学池袋キャンパス11号館A−204教室

染谷臣道(本学会・会長)

テーマ:「収奪文明から還流文明へ—問題提起として」

1.文明は人類を幸福にしたのか?不幸にしたのか?

2.文明とは何か—文明以前の文化(プレ文明)との比較から—

収奪なくして文明なし(蒸気機関)。

収奪ゆえに問題累積(文明のディレンマ、文明の原罪)

人類史のほとんどはプレ文明(狩猟採集、移動、小集団、精密時計)。ただし後期旧石器時代になると定住化、複雑化。人々は協力、自然との闘いが主務。人間同士の争いは?

1万1千年ほど前に農耕牧畜(自然の収奪)。定住化、社会の拡大、複雑化。財の蓄積。争いの激化。文明化で加速。文明発達史は収奪拡大史。

3.自然の収奪(環境破壊)は20世紀の後半、大規模化

4.社会的収奪は500年前、ヨーロッパ諸国による世界大の収奪(植民地支配)で極に。20世紀後半からは新植民地主義(すさまじい飢餓、貧困、病気、難民、戦争、失業などを惹起)。

5.社会的収奪は、ついに先進国自体にも。人々の<心身>の機械化、欲望の肥大化(物質主義)、格差の拡大、仕事量の増加と偏在、心の空洞化と病の急増、(自らの収奪としての)自殺の急増、犯罪の増加など

6.なぜ収奪は起こるのか?文明の欲望拡張作用

7.欲望の制御は可能か?

8.いかに収奪文明を越えるか?文明の構造変換

9.「文化・社会・政治・経済の複合体」としての文明内部におけるチェック&バランス

10.何のための文明?誰のための文明?

池上真理子(上智大学グローバル・スタディーズ研究科地域研究専攻博士後期課程2年)

テーマ:「カンボジアのおける鉄生産と資源利用 少数民族クーイの民族誌および聞き取り調査を中心として」

カンボジア北部−北東部に居住するモン=クメール語系の少数民族であるクーイについては、19世紀半ばから20世紀にわたって当時の植民地政府の鉄鉱石の需要からとりわけ在地の製鉄業の存在が注目され西洋人によって民族誌が作成された。このクーイの製鉄業については、東南アジアの金属史を研究する上でその情報の豊富さから良質の資料となるだけでなく、鉄鉱石を採掘した鉱山の立地や製鉄業に伴う民俗事例から9世紀から15世紀にかけてカンボジア北西部を中心として栄えたアンコール朝との関連が研究者の中でさかんに考察されてきた。しかしながら、主に伝承および民俗事例の考察をもとに、クーイとアンコールのつながりが自明のものであると捉える視点は現時点で検証的であるとはいえない。

従来の論をふまえた上で発表者は本発表において特にクーイの製鉄業の規模や分布域、その生産体制、資源利用の実態に注目してこれまでの民族誌、先行研究を再度丁寧に読み解くとともに、2008年から行っている該当地域での踏査、聞き取り調査の成果を活かすことで新たな考察を試みる。

横山玲子氏(東海大学文学部アメリカ文明学科教授)

テーマ:「中南米の先史時代に見られる環境利用について」

 中南米の自然環境は実に多様であり、先史時代の人々はさまざまな自然環境に適応しながら文明を発展させた。メソアメリカ(中米)では、熱帯のジャングルを中心にいくつものマヤの王国が盛衰し、広々とした高原地帯にはテオティワカンをはじめとするさまざまな王国が築かれた。16世紀初頭にスペイン人たちが到着したころにはアステカ文明が、高原地帯を中心に帝国とも言える大規模な王国を築いていた。また、中央アンデス(南米)では、アンデス山脈が作りだす5000m以上もの標高差を利用して、海岸のモチェやチムー、山地のティワナクやワリなど、さまざまな王国が盛衰し、16世紀初頭には、中央アンデス一帯を統一したインカが、アステカ同様に大規模な王国を築いていた。本発表では、10世紀に起こった「古典期マヤ文明の崩壊」と呼ばれる現象に対するいくつかの解釈を紹介しながら、現代科学的発想に基づいた解釈が妥当かどうかを考えてみたい。なぜなら、メソアメリカでも中央アンデスでも、彼らは自然を巧みに利用して人間の社会を営んだが、同時に自然の事象を神々として祀り、人間が働きかけ、人間が養わなくてはならない「生きた存在」として捉えていたと思われるからである。

16:00 総合討論

コメンテーター: 鬼頭宏(上智大学 経済学部経済学科 大学院地球環境学研究科教授)

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