第78回研究例会(5月27日)のレジュメ

第78回研究例会

日時:5月27日(土)、13時から16時まで

場所:早稲田大学55号館S棟407教室(共通ゼミ室)                                  

レジュメ

高橋誠一郎(東海大学教授)

 「司馬遷の『史記』と司馬遼太郎--初期作品における比較文明学的な視野の形成」

                    

 司馬遼太郎というペンネームについて司馬は、「『史記』こそ世界最大の文学だと信じていたから、司馬遷の姓を借りることにし、名を遼とした」とし、「司馬ヨリモ遼(ハルカニトオシ)とシャレたつもりであった。ところが司馬遼では国籍をまちがわれると思い、太郎をつけた」と書いている。

 たしかに夏、殷、周、春秋、戦国、秦、漢にいたる「帝国」や「国家」の歴史を比較しつつ描いた『史記』は、時代的な制約はあるものの、比較文明学的な視野すら持ち得ており、司馬の時代小説にも「列伝」的な形式や比較という方法をとおして日本の原形に迫ろうとする意志が見られる。

 本発表では「ペルシャの幻術師」や「戈壁(ゴビ)の匈奴」などの初期作品から司馬には「辺境」と「文明」との関係やシルクロードへの関心が強くみられるばかりでなく、司馬の戦国観が日本だけではなく中国やロシアとの比較の上に成立していることを明らかにする。

菊地敬夫(早稲田大学理工学部総合研究センター講師)

 「エジプト王家の谷の王墓に描かれた冥界の書について 

   〜アメンヘテプ3世王墓における史料化から見えてくるもの〜

 発表は本年度から取り組む「アメンヘテプ3世王墓に描かれた「アムドゥアト書」の史料化に向けた基礎的研究」についてである。

 研究の全体構想では、古代エジプトと現代日本を比較することから問題意識を深めた。死の定義には2つの側面がある。?一義的な生物学的な死 ?文明間で異なる文化的な『死』である。

 古代エジプト文明では、永遠の生命を信じて、『死』をめぐる思索を深め、3000年以上に渡って『死』を見つめ続けた。思索の視点とその時間的な持続性において、『死』に関する比較文明的な考察のための1つの軸となり得るのではないか。

 一方、現代日本では、『死』は日常の中でますます隠されていく。そして『死』を理性的に把握する機会がなくなる恐れさえある。このような社会の環境が、そこで生じている諸問題の根源にあるのではないか。

 本研究プロジェクトは、日本から古代エジプト人の『死』をめぐる思索の一端を研究し、紹介することによって、『死』に関する文化の形式学的な分類を目的とするのではなく、『死』を再び理性的に見つめ直すために有効な領域横断的な学術フォーラムを創ることを目指す。

 発表では冥界の書の1つである「アムドゥアト書」の史料化の必要性と、その手法確立へ向けての計画、史料化からうかがうことが出来るであろう諸点を紹介する。

 様々な観点から問題意識を共有頂ける方々の御教示を頂きたい。

実松克義(立教大学社会学部教授)

  「ボリビア・アマゾンの古代文明について」

 

 アマゾンは世界最大の熱帯雨林生態系を持つ地域であるが、長い間文明とは無縁の未開の処女地であると思われていた。ところがそのアマゾン地域において近年高度な古代文化の痕跡の発見が相次いでおり、アマゾンについてのこれまでの既成観念が変わりつつある。中でもボリビア・アマゾンのモホス大平原には最大級の古代文化が存在したことが判明している。

 モホス大平原はボリビア北東部のアマゾンの低地に位置する。面積にして約25万平方キロ、日本の本州に匹敵する広さであるが、その全域に古代人社会の遺構が残されている。 興味深いのはここがジャングルではなく、三つの大河に囲まれた氾濫原であることだ。この文化は通常古代モホス文化、あるいはその規模の大きさから、古代モホス文明と呼ばれている。

 古代モホス文化はアマゾンの自然を改造する大土木工事を行った。現在でも、約二万個の居住地跡、総延長五千キロに及ぶ古代の直線道路網、広範な運河網、約二千個の人造湖、大規模な養魚場跡、無数の耕作地跡などが残されている。居住地跡はロマと呼ばれ、最大のものは直径一キロにも達する。直線道路網はテラプレンと呼ばれ、堤防、ダムとしての機能もあったと思われる。また人造湖はすべて正方形、または長方形をしており、すべて北東?南西に方向付けられている。

 古代モホス文化の存在は、20世紀初頭にスエーデンの民族学者ノルデンショルドが報告して以来知られてはいたが、最近に至るまで本格的な調査研究はされてこなかった。その実態の解明のため、実松は今回日本・ボリビアの合同調査隊(モホス・プロジェクト)を編成し、昨年より本格調査を開始した。調査はボリビア国立考古学研究所(DINAR)の全面的な協力の下に実施された。

 調査隊は昨年8月3日から9月4日の約1ヵ月、現地ボリビア・アマゾンに滞在し、発掘調査を行った。発掘したのは、モホス大平原の中心都市トリニダードの東約35キロに位置する居住地跡(ロマ・パンチョ・ロマン)である。このロマは最高点8.7m、面積約5ヘクタールの、中規模の居住地跡である。発掘の結果、12体の人骨、12個の甕棺、数々の副葬品、工芸品、貝殻、いくつかの石器、また多数の土器片、土器類が出土した。

 発表では、アマゾン古代史、及び古代モホス文化について包括的なレクチャーをした後、昨年の発掘調査の結果を報告し、現在の時点での結論を述べたいと思う。

  例会後に懇親会を予定しており、そこで議論を深めたいと考えていますので、ふるってご参加ください。

 *会員外の方のご参加も歓迎いたします(資料代:500円)

会場への最寄りの交通機関から、大久保キャンパスへの地図とキャンパス内の配置図は右記のホームページをご参照くださいhttp://www.sci.waseda.ac.jp/campus-map/

*会員外の方のご参加も歓迎いたします(資料代:500円)

会場への最寄りの交通機関から、大久保キャンパスへの地図とキャンパス内の配置図は右記のホームページをご参照くださいhttp://www.sci.waseda.ac.jp/campus-map/

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