第1回比較文明学会研究奨励賞

伊東俊太郎賞

○ご挨拶 伊東俊太郎

 比較文明学会研究奨励賞受賞は、大変おめでたいことであります。今回は第1号の受賞でありますが、私がこれまで比較文明学研究に携わり、この学会の会長を長く務めさせていただきましたことなどから、この会長職を退くにあたり、是非後進の励みとなるような賞を創設したいという強い要望が学会の人たちの中からありました。それには1等賞(イットウショウ)の意味も含んで伊東賞という名を用いてもよいということで、私も、それらの皆様のご意向を有難く酌みとり、ここにこの賞が創設されるにいたったわけであります。どのような若い研究者が出てこられるかが今後の大きな楽しみでありますが、若い会員の皆様が一層研鑽を積まれ、ますます(葛谷彩さんのような)優れた若手受賞者が続々と出現することを期待しております。

 学会の将来にとってこれからの後継者がたくましく育ってゆくということが、死活的に重要なことであります。その意味で、このような研究奨励賞を設けられた本学会の皆様の先見の明にあらためて敬意を表し、それに伊東賞の名を添えるという栄誉に浴させて頂きましたことに、心からなる謝意を表します。このたびは葛谷彩様、本当におめでとうございました。

○講評 原田憲一

 比較文明学会研究奨励賞の選考委員会(原田憲一〔委員長〕、鬼頭宏、小林道憲)は、本賞の候補作品として推薦された下記の4著作を比較文明学的観点から査読し、最終的に完成度の高さを評価して葛谷彩『20世紀ドイツの国際政治思想』を授賞作品と決定した。

(1)朝水宗彦『持続可能な開発と日豪関係』くんぷる2004年9月22日発行 222 pp.

(2)Asamizu Munehiko, World Travel and Japanese Tourists, 学文社2005年6月10日発行 109 pp.

(3)葛谷彩『20世紀ドイツの国際政治思想—文明論・リアリズム・グローバリゼーション—』南窓社2005年3月31日発行 192 pp.

(4)金子晋右「環境と農業をめぐるグローバリズム時代の文明化関係」(山折哲雄編著『環境と文明—新しい世紀のための知的創造—』NTT出版2005年7月1日発行) pp.132-173.

受賞作品は、全5章から構成されていて、著者のことばによるならば、「グローバリゼーションとアイデンティティーの相克が重要性を増しつつある今日の世界において」、「20世紀ドイツの国際政治思想を『短い20世紀』論と『長い20世紀』論のふたつの対比から通観」することによって、「ドイツ国際政治思想が極めて示唆に富むものであることを明らかにし」、「その再評価を目的とする」ものである。

 シュペングラーの『西欧の没落』と、その国際政治観を論じるなど、単なる国際政治思想にとどまらず、比較文明学的な著書になっており、ヨーロッパ(EU)とドイツの関係を軸にして20世紀、および文明と文化をとらえようというアプローチは、比較文明学のひとつの手法を踏むものとして高く評価できる。手堅い博士論文ではあるが、諸家の祖述に傾きがちで、著者の比較文明論的な考え方がまだ十分に展開されていない点でいささか不満が残るものの、若手研究者の今後に期待するという本賞の趣旨に鑑みて、受賞作品としてふさわしいと判断した。

○受賞の言葉 葛谷彩

 この度は光栄にも第一回比較文明学会研究奨励賞(伊東賞)を賜り、まことにありがとうございます。受賞作『20世紀ドイツの国際政治思想—文明論・リアリズム・グローバリゼーション』(南窓社)は、平成16年3月に京都大学大学院法学研究科に提出した博士論文を、出版に当たって加筆・修正したものです。山本新先生を嚆矢とする諸先輩方の系譜に連なる本賞の受賞は、望外の慶びであります。その一方で、自らの文明論を提示するどころか、シュペングラーの文明論・国際政治論やモーゲンソーのリアリズム国際政治論など20世紀ドイツの国際政治思想の分析を通じてのドイツの知的伝統の再評価という問題提起に止まっている拙著に対して、かかる賞を戴くことは内心忸怩たるものがあります。

 しかし同時に、受賞を研究の続行に対する叱咤激励のメッセージと受け止め、これからの研究を通じて諸先輩方が築いてこられた比較文明学に何がしかの貢献ができればと考えております。今後も近年の国際政治学と文明論の融合の試みとしてのハンチントンのそれとは異なる、もう一つの系譜としてのドイツの知的伝統の意味を探究していきたく存じます。さらに、

ドイツ同様後発国であり戦前においてその知的影響を強く受けた日本の国際政治思想との比較も視野に入れております。

最後に、国際政治学と文明論の世界に私を導いて戴きました大学院での恩師である故?坂正堯先生と野田宣雄先生、博士論文執筆に際し厳しい指導を賜りました中西寛先生、早くから私の研究に対してその意義を認めて下さり、出版に際しても多大なるお骨折りを戴きました本学会会員の三宅正樹先生、昨年の比較文明学会大会での私の報告に関心を示され、三宅先生同様本賞への応募を勧めてくださった日置弘一郎先生に厚く感謝申し上げて末尾とさせていただきます。

(明治学院大学)

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