第22回大会特別講演を梅原猛氏にお願いする

梅原 猛 先生

 伊東俊太郎前会長からお話があったことと存じますが、来年秋の

比較文明学会年次大会が九州支部の担当で、北九州市立大学を会場

にして開催されます。10月1〜3日の会期のうち2日(土)午後

の特別講演で<新しい倫理基盤としての森の思想>についてお話し

願えないでしょうか。演題は自由に変更していただいて結構ですが、

担当支部で現在考えている大会の内容は以下の通りですので、それ

に沿ったお話をお願いしたいと希望しております。

 なお、大会のテーマ等は大会運営委員会で決定されますので、現

段階では九州支部の希望としてご理解いただきたいと思います。

 

 近代文明に内在する深刻な諸問題についての研究が世界中で進め

られているにもかかわらず、近代文明を越える新しい文明の創造に

ついての議論は不十分である。比較文明学会こそがその大事業に正

面から繰り返し挑戦しなければならないのではないでしょうか。

 近代文明を支えた理念は人間中心の Humanism であり、人類の幸

福実現という大目的のために科学技術を発展させ、人間同士の平和

共存のためにほとんど全ての倫理道徳が形成されていたが、そのこ

とが主原因で人類は多くの生物種を絶滅させ、地球上の人口爆発を

誘引し、砂漠化やオゾンホール拡大などの環境破壊を深刻化させて

いった、という認識が広がっている。

 近年、世界的に道徳観念が希薄化し、倫理観が崩壊しつつあるの

は、そのような時代背景と無関係ではない。急速に犯罪を凶悪化し

ている若者世代の意識の中では、人間一人の命とアザラシ一匹の命

の価値が大差なくなっている。彼らにとって Humanism はすでに

崩壊しているのではないだろうか。

 近代文明を越える新しい文明の創出には Humanism を越える新し

い理念が必要である。その新しい理念は、人と人との共生だけでな

く、人間と自然との共生を求める Symbioticism(共生主義)では

ないだろうか。人類だけが独善的に豊かさを求める近代文明から、

人類と自然との調和的共生という確かな基盤の上に地球規模の平和

を築く新しい文明を創出しなければならない。

 来年の比較文明学会では、文明と環境とのこれまでの関連を整理

し、新しい文明の創造に向けてまず Symbioticism の理念と、緊急

の課題である倫理教育の可能性について、何らかの建設的な議論が

展開されることを私たちは強く期待しています。

 北九州市長は優れた環境行政で世界的にも功績を認められており、

市長にも何らかの発言の場を用意してはどうかという意見もありま

す。また、北九州市の教育委員会は教育の抜本的改革のために新機

軸の倫理基盤構築の努力を始めているので、梅原先生の特別講演を

教育委員会に後援していただき、市民に広く公開して、今後の議論

の深化を促したいと願っています。

 梅原先生がかねてより主張しておられる日本の縄文以来の伝統的

「森の文化」の重要性と、Symbioticism の方向性は一致しており、

最近の稲盛氏との共著『新しい哲学を語る』の中で言及されている

「人類のための新しい思想」に大いに期待しています。

 以上、誠に勝手なお願いですが、新しい未来に向けて梅原先生に

是非ご講演をお願いしたいと存じます。どうぞよろしくお願いいた

します。

           比較文明学会九州支部長 吉崎泰博

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