高橋誠一郎『堀田善衞とドストエフスキー ‐大審問官の現代性‐』(群像社)
高橋誠一郎会員の著書の紹介です。
池澤夏樹が思想の柱といい、宮崎駿が世界を知る羅針盤とする堀田善衞。
その堀田の若き日々をつづった作品で大きな存在感を見せるドストエフスキー。
二人の作家は混迷を極める時代にどのように向き合い、作品を生み出していったのか。
共鳴する二人の作家の思索をたどり、パンデミックや戦争の危機に直面している現代において、他者を容赦しない大審問官的な存在を越えて進むべき道筋を考察した、比較文学が開く新たな視野。ドストエフスキー生誕200年記念出版
「目次」
はじめに 堀田善衞のドストエフスキー観——ドストエフスキーで現代を考える
序章 芥川龍之介のドストエフスキー観——『罪と罰』の考察と悲劇の洞察
はじめに 問題の設定——二つの芥川龍之介観
一 若き芥川龍之介と大逆事件の衝撃——『羅生門』の誕生
二 「英雄礼讃の思想」の批判——『趣味の遺伝』から『将軍』と『桃太郎』へ
三 雑誌「驢馬」と芥川龍之介の『僕の瑞威(スヰツツル)』
四 芥川龍之介から堀田善衞へ——黒澤明『蝦蟇の油』を手掛かりに
第一章 絶望との対峙——『白夜』の時代と『若き日の詩人たちの肖像』
はじめに 堀田善衞と『白夜』
一 堀田善衞の「重層史観」とドストエフスキーの『白夜』
二 『罪と罰』のテーマと「メクラ」の馬
三 「日本浪曼派」と「満州国の理念」の考察
四 『頓奇翁(トンキオウ)物語』とランボオ
五 「アリョーシャ」の「キリスト」論と復古神道
おわりに 『若き日の詩人たちの肖像』から『方丈記私記』へ
第二章 『罪と罰』の受容と日本の知識人の考察——『時間』と『記念碑』を中心に
はじめに 若き堀田善衞の上海体験
一 軍隊という制度と「罪の意識」——武田泰淳の『審判』
二 「文学の立場」と「鼎の語法」——長編小説『時間』
三 原爆の噂と「ヨハネ黙示録」——短編『国なき人々』から長編『祖国喪失』へ
四 「国策通信社」の制度と「治安維持法」の考察——長編小説『記念碑』
五 新たな「転向」と記憶の「扼殺」——『奇妙な青春』
六 短編『広場の孤独』から『黄金の悲しみ』へ
第三章 ドストエフスキーの手法の考察と応用——『囚われて』から『零から数えて』へ
はじめに 教祖・小林秀雄との対峙——「事実」の直視
一 詩人・原民喜の自殺と短編『囚われて』
二 『インドで考えたこと』における近代化の考察——比較文明学的な視点
三 小林秀雄と堀田善衞のドストエフスキー観——『考えるヒント』と『零から数えて』
四 『零から数えて』における『白痴』と『悪霊』的な要素
五 「ヒットラーと悪魔」と堀田善衞の『本居宣長』観
おわりに 映画『ゴジラ』から映画『モスラ』へ
第四章 核の時代の倫理と文学——ドストエフスキーで長編小説『審判』を読み解く
はじめに 核の時代と「大審問官」のテーマ
一 『審判』とその時代——『ヒロシマわが罪と罰』と安保条約改定
二 『白痴』と『悪霊』の主人公の苦悩と『審判』のポール・リボート
三 『審判』における家の構造と世代間の対立
四 『白痴』の人物体系と『審判』——出唐見子と叔父・高木恭助
五 上官・志村の「罪」と美意識の問題——『審判』における復讐と決闘のテーマ
六 「逆キリスト」としてのポールと「大審問官」のテーマ
おわりに 『審判』から『スフィンクス』へ
第五章 ナポレオン戦争と異端審問制度の考察——『ゴヤ』から『路上の人』へ
はじめに プラーテンの詩と『美しきもの見し人は』
一 『ヨハネの黙示録』と「異民族交渉について」——『美しきもの見し人は』
二 異端審問所とスペインの独立戦争の考察——ゴヤとドストエフスキーへの関心
三 『罪と罰』の考察とスピノザの哲学——「ナポレオン現象」と「非凡人の理論」の克服
四 「大審問官」の考察——『路上の人』と『カラマーゾフの兄弟』
おわりに 平和の構築を目指して——『ミシェル 城館の人』
終章 宮崎アニメに見る堀田善衞の世界——映画《風の谷のナウシカ》から映画《風立ちぬ》へ
はじめに 宮崎駿の文学観と堀田善衞
一 映画『モスラ』から『風の谷のナウシカ』へ
二 卒業論文のランボオと映画『紅の豚』
三 映画『風立ちぬ』と『若き日の詩人たちの肖像』の時代
おわりに 映画『風立ちぬ』と堀田善衞の「風立ちぬ」観
あとがきに代えて 『若き日の詩人たちの肖像』との出会いと再会
出版社 : 群像社
発行日:2021年10月
頁数:320頁
ISBN-10 : 4910100202
ISBN-13 : 978-4910100203