比較文明の窓―会員からの声―

(論文)「人類を破滅に導かないために」

                                名誉理事 服部英二

本論文はフランスに本拠を置く国際学会「共生思想」のホームページに掲載されたものです。

・国際学会「共生思想」のホームページ(紹介文)

Pour échapper à ce qui nous mène au néant – Convivialisme

J’ai le plaisir de vous présenter un texte de l’un de nos amis convivialistes Japonais, M Eiji Hattori qui a vécu de longues années en France, en particulier c…

・論文へのダイレクトリンク

https://convivialisme.org/wp-content/uploads/2023/05/2023-05-23-Eiji-Hattori-echapper-au-neant.pdf

この学会は、2010年の東京における「共生」に関する日仏対話の結果生まれたもので、2013年に「Manifeste Convivialiste共生主義宣言」を発信、2018年の日仏会館における第2回シンポジウム(地球システム・倫理学会共催)の後、2020年に「第2次共生主義宣言」を発信しています。日本の「ともいき」の共生思想を欧米の学者が止揚したものといえます。

2023年現在33カ国276名の会員を擁するこの学会の発起人には脱成長論のセルジュ・ラトゥーシュ、コレージュ・ド・フランスにおけるレヴィー=ストロースの後任フィリップ・デスコーラ等が名を連ね、日本からは早稲田の西川潤が参加しています。

今回の服部論文の紹介文はレンヌ大学のマルク・アンベール教授です。

本論文の題名邦訳は、「人類を破滅に導かないために―「間」から湧き出る光を知ろう、己と他者・人と自然の間に―」となります。

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本論は『地球倫理への旅路』(北海道大学出版会2020年)の内容を凝縮し、更なる考察を加えたものです。

以下内容の短観。

・人類は今やAIに支配される「特異点Singularity 」に向かっている。何故このような事態が生じたのか?

・二項背反のアルゴリズム。17世紀西欧の科学革命による、主客の分離、自然との離婚、自然の資源化が現在の危機的状況を招来した。

・中世の黄昏、ヨーロッパにおける科学と神学の拮抗と2重真理説に注意。それにより科学に与えられた「免罪符」が後の大量破壊兵器の発明に繋がるもの。

・神の死とニーチェ。既成事実を告発した勇気。

・人類文明の理解には、東西の対比ではなく、17世紀の科学革命による<自然との離婚>以前と以後の存在論的対比が重要。

・排中律から包中律へ、UNESCOからの警告、最先端科学による伝統智との対話の可能性(ヴェニス宣言1986)、「全は個に、個は全に遍照するとの全一性Wholenessの把握」(東京からのメッセージ1995)。

・A・ベルクの「風土学Mésologie」、G・マルセルのCo-Esse(共存在)、フランシスコ教皇の回勅「ラウダート・シ」に見る自然観。

・ソルボンヌ時代、リクール教授に投げかけた「Aは同時にnon A」の問い、テトラレンマの第4項。

・方丈記の「諸行無常」本居宣長の「もののあわれ」とヘラクレイトスの「パンタ・レイ」。

・日本のイメージ=女性原理。南方熊楠、A・マルロー,司馬遼太郎、ドナルド・キーンの証言。

・「文化の多様性に関する世界宣言(UNESCO2001)」は、1995年の国連大学におけるJ=Yクストーの証言から産まれた。多様性の大切さ、他者のおかげで自己があることの自覚。曼荼羅の思想を説いた鶴見和子、死の直前のレヴィー=ストロースの証言。

・所有の文明から存在の文明へ。忘れられた生命の樹の再発見へ。中村桂子の生命誌。

・「間」に光り在り。「あわいの智」へ。

・唯一の世界語は「誠」である。

以上