比較文明学会第30回大会開催に寄せて

この度、比較文明学会は、第30回という記念すべき学術大会を、地球システム・倫理学会第8回学術大会との合同開催として実施する運びとなりました。大会の準備に精力的にあたられてきた、鎌田東二委員長をはじめとする、大会実行委員会の皆様のご尽力に敬意を表すと共に、衷心から感謝を申し上げる次第です。

 本大会は、実質的に学会創設30周年を記念する、翌年の第31回学術大会とともに、比較文明学会の30年の歩みを振り返り、これからの学会がめざすべき方向のみならず、人類文明が、その存続を賭して歩みを進めるべき、将来の道程を考える機会とならなければなりません。

人類が誕生してから700万年、私たち、ホモ・サピエンスの直接の祖先が誕生してから、20万年という時間が流れました。しかし、人類文明がこの間に残した成果は、人類自身にとって、決して誇るべきものだけだったわけではありません。民族や国家など、諸集団間の紛争や戦争、強者による征服と弱者の支配が、人類の文明史に常に暗い影を投げかけてきたのです。私たちが生きる場、すなわち、人類とその文明を育んできた「大生態系」としての地球に対しても、文明の発達は、人類中心の思考と行動の下、深刻な影響を及ぼし続けてきました。その結果、資源の涸渇と地球温暖化をという結果を招いてしまったのです。総体としての人類文明は、また、地域や集団の生活様態としての諸文明はいかにあるべきかを考え、個々の地域文明間の、さらには、人類文明と地球との関係性をいかにして再構築すべきかが、19世紀的ディシプリンを超脱した総合知に立脚して、いま問われなければなりません。

 2011年3月11日、わが国は、東日本大震災という未曽有の災害とともに、福島第一原子力発電所の事故という、偏った知の誤謬に起因する大惨事を経験しました。本年は、竹島や尖閣諸島の領有権に絡む近隣諸国との国際紛争が深刻化しつつあります。これらは、極めて遺憾なことですが、人類文明が本来内在してきた危機を象徴的に表しています。さまざまな災厄に打ち克ち、人類と地球の存続のために現代文明はいかにあるべきか、いかにして「平安文明」を創造できるか、その答えの一端でも明らかにすることが、第30回大会と、今後の比較文明学会に与えられた課題だと言わなければなりません。

 本大会が、多くの会員の皆様のご参加のもとに、活発な議論を通して、文明の未来像を構想する上で実り豊かなものとなることを祈念してやみません。

                                比較文明学会会長

                                   松本 亮三

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