「江戸中期の恒星図に見られる西洋天文学の影響」藤原智子・平井正則

「赤道南北恒星図」と題する星図が日本各地から発見された。これらの星図はほぼ同じ大きさで、同じ形式で作成されている。北図と南図に分けて赤道座標系で恒星がプロットされ、星図を横切って28宿境界線、30度(12宮)境界線が引かれている。これらの星図は中国星座が描かれ、江戸中期〜末期にかけて日本で作られたものであるが、恒星の等級も記録されている。当時の日本や中国の天文学には等級の概念がなく、等級の存在そのものが西洋天文学の影響を示唆している。また、恒星の等級は実際の観測なしには記録出来ないものである。

 我々は三浦梅園資料館、名古屋市蓬左文庫、九州大学桑木文庫に保存されている3種の「赤道南北恒星図」 について、等級データがそれぞれ独立の観測に基づいているか?別の星図から写したものであればオリジナルのデータはどれか?を調べる為、各星図に記録されている恒星の等級を抽出し、統計的手法にて解析を行った。その結果、これらの星図の等級データは独立の観測に基づいたものではなく、別の星図をそのまま写したものである事が分かった。更に記録された等級は「儀象考成」の星表データに基づいている事が判明した。この書物は中国にてイエズス会宣教師が編纂した暦で、西洋天文学の影響を受けている。「儀象考成」の星図には等級の記録がないので、「赤道南北恒星図」は儀象考成の星表データを使って、全く別に編纂された星図(未発見)を写したものであると考えられる。

 本講演では3種の「赤道南北恒星図」と同時代に中国で編纂された暦について、その特徴や違いを紹介し、等級データの統計テスト解析を経て星図の来歴について得られた結果を発表する。

 藤原智子(九州大学大学院理学研究院 / 日本学術振興会特別研究員)・平井正則(福岡教育大学)

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